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2026年度版 専門医試験はどこへ向かうか

2026-08-23
公表されている各専門医試験の合格率と、米国で進む「一発試験からの離脱」(ABIM LKA・ABFM FMCLA)を突き合わせ、日本の専門医試験の問題がどう変わりうるかを整理した年…

専門医試験は、いま静かに形を変えつつあります。海外では「10年に1度の一発試験」を廃止する動きが本格化し、日本では2026年度に機構認定専門医の初回更新が始まりました。

このレポートは、公表されている各試験の結果と海外の制度動向を突き合わせ、日本の専門医試験の問題がどう変わりうるかを整理したものです。年度版として毎年更新します。

読み方について:数値と制度は出典を明記した事実のみを載せています。そこから先の見通しは「考察」と明示して分けました。当サイトは学会・機構の関係機関ではなく、考察部分は公式見解ではありません。

各試験の結果は、どこまで公表されているか

まず判明したのは、結果の公表姿勢が学会ごとに大きく違うということです。

学会公表されている内容
日本内科学会年度別の受験者数・合格者数・合格率を一覧で公開
日本外科学会当該年度の申請者数・受験者数・合格者数・不合格者数・合格率を公開
日本医学放射線学会年度ごとに試験別の受験者数・合格者数・合格率を公開
日本麻酔科学会合格者の発表は行われるが、合格率の継続的な公表は確認できず
日本産科婦人科学会合格者一覧の掲載はあるが、合格率の公表は確認できず
その他の学会継続的な数値公表を確認できず

受験を控えた立場からすると、自分の試験の難易度の推移がわからない領域のほうが多い、というのが現状です。過去問の公開方針が学会ごとにばらついているのと、同じ構図です。

過去問の入手可否は 専門医試験の過去問はどこで手に入るか【19試験まとめ】 にまとめています。

数字が公開されている試験の結果

内科専門医試験

日本内科学会は、新制度の内科専門医試験について第1回からの結果を公開しています。

回年度受験者数合格者数合格率
第1回2021年度1,9651,85694.45%
第2回2022年度2,4952,24690.02%
第3回2023年度2,8332,41685.28%
第4回2024年度2,9972,80493.56%
第5回2025年度2,7692,64695.56%

考察:2023年度の85.28%が底で、そこから2年連続で上昇し、2025年度は95.56%と第1回以降で最も高くなっています。受験者数は2024年度の2,997人がピークで、2025年度はやや減少しました。

合格率が変動する要因は、問題の難易度・受験者層・合格基準の設定など複数が絡むため、数字だけから「易しくなった」と断ずることはできません。ただし少なくとも、2023年度のような年が起こりうることは押さえておくべきです。合格率9割超が続いているからといって、対策を軽くしてよい根拠にはなりません。

放射線科専門医試験

日本医学放射線学会は、令和7年度の試験結果を公表しています。

試験受験者数合格者数合格率
第5回 放射線科専門医認定試験29026089.7%
第2回 放射線診断専門医認定試験16215293.8%
第2回 放射線治療専門医認定試験555294.5%

考察:基本領域である放射線科専門医の89.7%は、内科の95.56%・外科の98.4%と比べて低い水準です。同じ「合格率9割前後」でも、10人に1人が不合格になる試験と、100人に2人の試験では準備の重さが変わります。合格率を公表している領域が少ないため横並びの比較はできませんが、領域によって水準が違うことは確かです。

外科専門医試験

日本外科学会は、令和7年度(通算第4回)の新制度外科専門医試験について次を公表しています。

項目人数
申請者数793
受験者数791
合格者数778
不合格者数13
合格率98.4%

考察:不合格が13名という水準です。研修プログラムの修了要件や症例要件を満たした時点で相当の絞り込みが済んでおり、試験そのものは最終確認の位置づけに近いと読めます。

この構造は受験者にとって重要な意味を持ちます。合格率が高い試験ほど、落ちる13名に入らないことが目標になります。差がつくのは難問ではなく、全員が取る問題の取りこぼしです。

専門医試験は「奇問」で落ちない。基本問題の取りこぼしで落ちる

海外の動向:一発試験からの離脱

日本の議論より先行しているのが、米国の認定機構の動きです。ここ数年で、10年に1度の高ストレスな更新試験を、継続的な評価に置き換える流れが定着しました。

ABIM(米国内科認定機構)の LKA

ABIM は Longitudinal Knowledge Assessment(LKA)を提供しています。

項目内容
形式四半期ごとに30問、5年サイクル
受験環境時間・場所を選ばず、資料参照可
判定5年サイクルの最後に合否
不合格時翌年に従来型の10年MOC試験を受ける

ABIM の公表によれば、2022年の開始以来、92,000人を超える医師が112,000以上の認定を LKA で維持しています。2026年だけで約20,000人が登録し、対象者の85%が従来の10年MOC試験ではなく LKA を選択しました。

ABFM(米国家庭医療認定機構)の FMCLA

家庭医療でも同様です。Family Medicine Certification Longitudinal Assessment(FMCLA)は、300問の1日試験の代替として、四半期ごとに25問を3〜4年かけて解く方式です。オープンブックで、都合のよい時間・場所で受けられます。2025年からは ABFM のすべての試験が新しいブループリントに基づくものとなり、FMCLA が5年サイクルの基盤として本格展開されました。

なぜ変わったのか

米国の認定機構が挙げてきた理由は、おおむね次の3点です。

  1. 一発試験の内容が日常診療と合っていない
  2. 試験対策のコストが高い
  3. 診療を離れる時間が必要になる

ABMS(米国専門医機構)の加盟ボードは、継続的評価に関する合意ガイドラインを Journal of Medical Regulation 上で公表しており、この方向はもはや一部の試みではなく標準化の段階に入っています。

問題の中身も変わる

形式の変化は、出題される問題の性質を必然的に変えます。

従来の一発試験継続的・資料参照可の評価
有利な能力記憶からの即時再生情報を評価し判断する力
問いやすい形用語・数値・分類の想起症例に対する判断、根拠の適用
問いにくい形長い症例の検討調べればわかる単純知識

資料を見てよい試験では、調べればわかることを問う意味がなくなります。結果として、問題は「知っているか」から「使えるか」に寄っていきます。

日本はどうなるか(考察)

ここからは、上記の事実を踏まえた当サイトの見通しです。公式見解ではありません。

更新のタイミングで、同じ論点に直面する

2021年度に初回認定を受けた機構認定専門医は、2026年度に初回の更新を迎えます。日本専門医機構では、この準備が委員会で進められてきました。

米国が更新試験の見直しに動いた背景は、日本にもそのまま当てはまります。現役の専門医に診療を止めて試験会場に来てもらうコスト、対策の負担、日常診療との乖離。更新の運用が本格化するほど、この論点は避けられなくなると考えられます。

日本でもすでに形式は動き始めています

これは考察ではなく事実です。 日本麻酔科学会は、2026年度第65回麻酔科専門医認定試験の会告で次のように案内しています。

2026年度第65回麻酔科専門医認定試験ではPCを用いた試験を導入します。

紙のマークシートからPCへ。単なる媒体の置き換えに見えますが、PCでの実施は、出題形式の自由度を大きく広げます。 動画や連続する症例展開、前問の解答によって次の問題が変わる形式などは、紙では実施できません。米国のLKA/FMCLAが成立しているのも、PC・オンラインで実施しているからです。

麻酔科はもともと筆記・口頭・実技の3科目で審査しており、19試験のなかでも評価の幅が広い領域です。その領域が筆記のPC化に踏み切ったことは、他領域にとっても前例になりえます。

なお同じ会告では、受験地の希望申込を「一般問題」「症例問題」の問題種別ごとに行う必要があるとも案内されています。問題種別が申込単位として分かれていること自体、出題の設計が変わりつつあることを示しています。

麻酔科の詳細は 麻酔科専門医試験の対策 にまとめました。

「形成的評価」への言及はすでにある

日本国内でも議論は始まっています。日本臨床麻酔学会誌(第44巻第1号、2024年)に掲載された倉橋清泰氏の論考は、麻酔科専門医認定試験について、筆記・口頭・実技の3試験で認知・情意・精神運動の各領域を評価しようとしている現状を整理したうえで、試験制度だけを見るのでは不十分であり、学会が主体となって「形成的評価」ができる仕組みを構築すべきだと提言しています。

形成的評価とは、合否を決めるための評価(総括的評価)ではなく、学習の途中で繰り返しフィードバックを返す評価のことです。米国の LKA / FMCLA は、まさにこれを制度化したものと言えます。

初期認定の試験はどうなるか

考察:更新試験と、初回認定の試験は分けて考える必要があります。

初回認定については、日本ではすでに研修プログラムの修了要件・症例要件による絞り込みが機能しており、外科の98.4%のように試験の合否で大量に落とす構造にはなっていません。この構造が続く限り、初回認定の試験が急に難化する可能性は高くないと考えられます。

一方で、問題の性質は変わりうると見ています。ガイドライン準拠の判断、症例をもとにした思考過程を問う設問は、記憶量ではなく判断力を見る方向として国際的な流れと整合します。

受験者にとっての結論

考察:向こう数年で受験する人にとって、対策の方針は大きく変わりません。

  • 合格率が高い試験ほど、基本問題の取りこぼしが致命傷になる
  • 単純な暗記より、ガイドラインの推奨と、その根拠になっている考え方を理解しておく
  • 症例を読んで判断する形式に慣れておく

これは形式が変わっても価値が落ちない準備です。むしろ、資料参照可の方向に進むほど、丸暗記の相対的な価値は下がり、判断力の比重が上がります。

具体的な進め方は 専門医試験の勉強法【完全ガイド】 にまとめています。制度の全体像は 専門医試験とは。制度と受験までの流れ へ。

このレポートの限界

正直に書いておきます。

  • 数値を公表している学会が少なく、19試験を横並びで比較できません。本レポートで扱えたのは内科・外科・放射線科の3領域です
  • 合格率の変動要因(問題難易度・受験者層・基準設定)を外部から切り分けることはできません
  • 日本の制度に関する見通しは、公表資料からの推論であり、機構・学会の決定を示すものではありません

来年度版では、公表される学会が増えれば対象を広げます。数値の誤りや、公表されているのに拾えていない学会があればご指摘ください。

出典

制度・日程・要件の最新情報は、日本専門医機構および各学会の公式発表をご確認ください。

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